1 孔雀椅(クジャクいす)・台湾クスノキ
Spindle-back Chair - Taiwan Camphor
一脚の古い椅子には、どれほどの年月が宿っているのでしょうか?
初めてこの**孔雀椅子(クジャクいす)**たちを目にしたとき、それらは苗栗の古い家の片隅に、厚い埃をかぶって静かに佇んでいました。何世代にもわたる暮らしの記憶がうっすらと感じられながらも、まるで時間にすっかり忘れられてしまったかのようでした。
けれども、ひと削りひと削り丁寧に磨き上げ、ひとつひとつ心を込めて補修していくうちに、樟木(クスノキ)が本来持っていた温かな表情が少しずつ姿を現してきました。その過程は、時間との対話であり、文化との静かな語らいのようでもありました。
修復を終えた椅子たちは、まるで生まれ変わったかのように、再びあのやさしい樟の香りと、思わず触れたくなる質感をまとって戻ってきました。幾世代の暮らしのかけらが、また日常の中で静かに息づき始めたのです。
お客様が驚きと喜びを浮かべた瞬間、私たちにとって、それは何よりの喜びでした。
もしあなたのそばにも、**もう一度価値を見出した「古いもの」**があるなら、ぜひその物語を、私たちにも聞かせてくださいね。
初期状態
苗栗の古民家から届いたもので、何十年も放置されており、椅子全体に埃と汚れが付着。
元の塗装は大部分が剥がれ、木材表面は艶を失い、部分的に構造の緩みが見られた。
孔雀椅の背面にあるスピンドル状の挽き物部は汚れが著しく、細部の装飾は判別困難な状態。
修復のポイント
構造を一つひとつ分解し、古い塗装を除去。クスノキ本来の木目と香りを丁寧に残しました。
再研磨とポリッシュ処理により、クスノキ特有の滑らかで温かみのある手触りと色合いを回復。
接合部およびスピンドル状の背もたれ部分の構造を補強し、椅子としての耐久性と快適性を確保。
天然木蝋オイルで表面を保護し、実用性を高めながら自然な艶を引き出しました。








