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7 四扉式家庭用神龕・台湾ヒノキ

Four-Door Household Shrine - Taiwan Hinoki

これは、お客様が**ご実家から大切に持ち込まれた神龕(しんかん)**です。梁や柱はすでに折れ、ほぞも緩んでおり、正面の塗装は剥がれ、ひび割れていました。それでもお客様は、「これはご先祖様が残してくれたもので、どうしても手放したくない」とおっしゃっていました。

初めてお会いした時の、お客様の表情が印象的でした。「また断られるかもしれない」という少しあきらめたような顔。「いろんなところに相談したけど、全部無理だと言われて……」と語った後、私たちが修復を引き受けると、まるで重い荷物を下ろしたように安堵の笑みを浮かべてくださいました。

この神龕は、1950年代ごろに台湾ヒノキで作られたものと思われ、装飾は控えめで、「四扉式の家庭用神龕」として当時の一般家庭に見られる素朴で端正な佇まいが特徴です。派手な金の装飾や彫刻はなくとも、木目や構造比率には古き良き時代の品格が感じられます。

修復はほぞの解体から丁寧に始まり、一つひとつの部材に番号を振って解体・分類。再組立ての際に構造がずれないよう、慎重に工程を進めました。塗膜の剥離、研磨、補強といった作業には長い時間と集中力を要しました。最後に天然オイルで仕上げ、木の持つ本来の色と香りを甦らせました。

完成の日、お客様の笑顔はとても明るく、職人たちまで嬉しくなるほどでした。この出来事を通して、南台湾における信仰と敬意の深さを改めて感じました。神明のご加護が今も続いているかどうかに関係なく、神龕はすでに宗教的な意味を超えて、**「家」という場所の記憶と結びついているのだと実感したのです。


  • 初期状態:

    • この神龕は1950〜1970年代に作られた台湾ヒノキ製の家庭用神龕で、四扉構造の対称的かつ安定感のあるデザインが特徴です。

    • 梁と柱は破損しており、ほぞ接合部は緩み、扉や台座にも歪みが見られました。

    • 木材内部には、昆虫やネズミの排泄物による汚れが染み込んでいました。

    • 表面の塗装は剥がれ落ち、木材は湿気により変色・部分的に暗沈していました。


  • 修復のポイント:

    • 全体をほぞ組ごとに分解し、各部材に番号を付けて管理。構造の比率と順序を正確に保持。

    • 古い塗膜と表面の汚れを除去し、構造補強と歪みの修正を丁寧に実施。

    • 天然の木蝋オイルで保護仕上げを行い、台湾ヒノキ本来の色味と木目を再生。

    • 修復後も元のデザインを尊重しつつ、構造の安定性と耐久性を向上させました。

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